ご両親から相続した実家、誰も住んでいない空き家、遠方の土地など。相続したはいいけれど、これらの不動産、どうすればいいのか悩んでいませんか?
放っておけば老朽化が進み、なおさら売却は無理とあきらめている人は少なくありません。しかし、適切な方法と不動産会社のサポートがあれば解決は難しくないかもしれません。
この記事では、実際に「取り扱いが難しい相続不動産」の売却に成功した事例を3つご紹介します。ぜひ最後までお読みいただき、相続不動産売却の参考にしてください。
今回は不動産会社も驚く「取り扱いが難しい」相続不動産の売却事例を紹介します。
取り扱いの難しい不動産として、以下の事例を準備しました。
- 相続した農地を売却した事例
- 相続した共有持分を売却した事例
- 相続した借地権付きの建物を売却した事例
どれも難解な案件ばかりですが、このような難しい案件であっても売却することは可能なのです。さまざまな事情を抱えた不動産をお持ちで売却をあきらめていた人にぜひお読みいただきたいです。
なお、事例については個人や不動産の特定を防ぐため、一部を脚色・改変して記載しています。
1.熊本市にお住まいのE様が、「相続した農地を宅地に転用して売却した事例」
土地には使用用途によって定められた「地目」があり、地目によっては売却が困難なものもあります。
最初にご紹介する事例は、地目が「田」である農地を相続したE様が売却した事例です。
農地を相続した人や農地の処分に困っている人には参考になる事例です。
お客様の相談内容
E様が相続した不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
E様が売却したい不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市北区植木町滴水 | 種別 | 更地 |
---|---|---|---|
建物面積 | - | 土地面積 | 1,030.36㎡ |
築年数 | - | 成約価格 | 800万円 |
間取り | 地目 | 田 |
相談にいらしたお客様のプロフィール
熊本市にお住まいの50代のE様は、亡くなったお父様の遺産を相続することになりました。相続財産には、預貯金、ご実家、そして代々続く約2,000㎡の田があります。E様は、田のすべてを耕作するつもりはなく、一部を売却したいと考えています。
解決したいトラブル・課題
E様が解決したい課題は、農地である田の一部を売却することです。
農地の売却は、農地法の規制があるため、複雑で難しい手続きが伴います。農地を売却したい場合は早めに不動産会社へ相談することが重要です。
相談する不動産会社の探し方・選び方
農地の売却を相談する不動産会社に求めたい条件は以下のようなものです。
・農地売買の経験があること | 農地売買について経験と実績があるかは、最初に確認しておきたいところです。農地法などの関連法規に精通していないと誤った手続きになってしまうこともあります。 |
---|---|
・地域に密着した不動産会社であること | 売却したい農地があるエリアの不動産事情に精通している会社を選ぶことも農地売買では重要です。地域の農家・農業委員会・地元のハウスビルダーなどとの関係性は、農地売買成功の要だからです。 |
・行政との連携や調整能力があること | 農地売買には農業委員会の許可が必要です。不動産会社が農業委員会との連携を密に行い、スムーズに売却するためには、連携や調整能力が欠かせません。 |
E様の「トラブル・課題」の解決方法
E様が所有する田の一部を売却するためには、さまざまなハードルをクリアしなければなりません。とりわけ、もっともメジャーな売却方法は、地目を農地から宅地(家や工場などの建物を建築できる地目)に変換して売却することです。地目を農地から農地以外の地目に変えることを「農地転用」といいます。
よって、E様の課題を解決するためには、農地転用の手続きが一丁目一番地といえるでしょう。
1.農地転用とは?
農地転用とは、農地を農地以外の地目に変える手続きをいいます。農地は日本の食料生産を支える重要な基盤です。そのため、農地を宅地に変えると農地が減少し日本の食料自給率が下がることにもつながるため、農地の売買や農地の転用は「農地法」という法律で厳しく規制されているのです。
2.農地を宅地に転用する条件や手続き
農地を宅地に地目変更するにはどのような条件や手続きが必要になるのでしょうか。ここでは、農地の売却前に知っておきたい、農地転用でよくある質問にお答えします。
・どんな農地でも宅地に転用できるの? |
農地によっては、宅地への転用ができないこともあります。 一言に農地といっても、その生産有効性や立地などから農地はランク分けされています。生産性の高い広大な農地と都会の真ん中にある小規模な農地では、広大な農地のほうが農地としての重要度は高くなります。このような生産力のある重要な農地は転用ができません。 なお、これら立地による判断のことを「立地基準」といいます。 |
---|---|
・農地転用の手続きの流れは? | 農地転用は、農業委員会へ申請から始まります。手続きの流れは①農業委員会への相談、②申請書類の作成、③現地調査、④関係機関との協議、⑤農業委員会の審議を経て、許可が決定されます。農地の広さ・農地のある地域・転用の目的などにより、これらと異なる手続きが必要になることもあります。 |
・申請すれば必ず転用ができるの? | 申請しても許可が下りないことはあります。許可が下りる要件として、立地要件を満たしていることのほか、「一般基準」と呼ばれる要件をクリアする必要があります。 |
・一般基準の内容はどんなもの? |
一般基準とは、以下2点の審査基準をいいます。
|
・農地転用手続きにはどのくらいの時間がかかる? | 農地転用手続きには早くとも数ヶ月かかります。長いときは許可まで1年かかることもありますので、早めの対応を心がけてください。 |
・農地転用をスムーズに行うコツは? | 農地転用は自分でも申請できますが、専門家に依頼するとスムーズに進めることができます。一般的には行政書士に依頼することが多いですが、売買を目的としているときは不動産会社に依頼するとワンストップで対応してくれます。 |
3.結果
E様は地元の不動産会社に依頼し、相続した田を宅地に転用して売却できました。1,000㎡を超える広大な土地であったため購入者が限られるかもと当初は不安でしたが、不動産会社が紹介してくれたハウスメーカーが一括で購入し分譲地として開発。
今では新しい家々が立ち並び子どもたちで賑わっているそうです。
2.広島市にお住まいのG様が、「共有持分として相続したマンションを売却した事例」
次にご紹介するのは、マンションの共有持分を相続したG様が、共有持分問題を解決しマンション売却に成功した事例です。
お客様の相談内容
G様が売却したい不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
売却したい不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市西区二本木 | 種別 | マンション |
---|---|---|---|
建物面積 | 65㎡ | 土地面積 | - |
築年数 | 38年 | 成約価格 | 900万円 |
間取り | 2LDK | - | - |
相談にいらしたお客様のプロフィール
広島市在住のG様のお母様が熊本市の老人ホームで亡くなり、相続が発生しました。相続財産には預金と、G様のお母様と叔父様が共同で所有していた賃貸用マンションが含まれています。G様は、このマンションを今後も持ち続けるか、売却するかを悩んでいらっしゃいます。
解決したいトラブル・課題
G様のお悩みは、賃貸用マンションを保有し続けるか売却するかを判断することです。しかし、保有と売却の判断をする以前に、共有の維持もしくは解消を決定する必要性があります。また、今回の事例では賃貸用マンションであるため、売却においては不動産投資家とのパイプも忘れてはいけません。
相談する不動産会社の探し方・選び方
G様の課題を解決できる不動産会社の特徴は以下のようなものです。
・共有持分の不動産取り扱い実績がある不動産会社 | 共有持分の売却は、通常の不動産売却とは異なる手続きや法律知識が必要になります。なぜなら、共有は民法に定められた特殊な所有形態だからです。豊富な経験を持つ不動産会社であれば、士業との連携を含めてスムーズに対応してくれることが期待できます。 |
---|---|
・買取実績が豊富にある不動産会社 | 共有持分の売却や共有問題の解決では、不動産会社の買取実績も確認しておきましょう。なかには共有持分のみを買い取ってくれる会社もあるため、問題を早期に解決したいときには専門性のある会社を選ぶことも重要です。 |
・ネットワークとフットワークがある不動産会社 | 特殊案件の解決には広範囲のネットワークと素早いフットワークが欠かせません。とりわけ、賃貸用マンションとなれば売却先は個人投資家であることが多く、広い情報網に素早く情報を流すことで早期の売却が実現できます。 |
G様の「トラブル・課題」の解決方法
G様の課題を解決するためには、共有という制度を理解することが重要です。そして、不動産の共有持分を処分する方法を具体的に提示することが求められます。
1.不動産の共有持分とは
不動産の共有持分とは、一つの不動産を複数人が共同で所有しているとき、それぞれの人が持っているその不動産に対する権利の割合のことです。
現金であれば複数人で均等に分割することが可能ですが、不動産はそうはいきません。そのため、共有という形を採用し、その共有持分の割合に応じて不動産を利用する権利を得るのです。共有状態は相続で発生することが多く、相続当時は共有で納得するものの、時間が過ぎればトラブルのタネになることもあります。
なぜ共有はトラブルのタネになるのか。それは、共有では持分に応じてできることが決まっているからです。持分でできることを、みんなで購入した机を例に具体的な解説をします。
例えば、机にコーヒーをこぼしてしまったので拭き掃除をする。このとき、一緒に購入した他の人たちに「机を拭いていいですか?」とは聞かないですよね。つまり、共有物の現状を維持する「保存行為」は、誰でも単独ですることができます。
次に、机が色褪せてきたので、色を塗りなおす作業をしたい。このときは、さすがに他の人に「色を塗りたいんだけど、どうかなぁ?」と伺いを立てます。もしも色について意見が合わないときは、多数決で決めるのがよいでしょう。つまり、共有物を利用・改良する「管理行為」は共有者のうち過半数の同意があれば行うことができます。
最後に、机が古くなってきたので処分したい。このときは、さすがに他の人に「机を捨てたいんだけどいいかな?」と聞きます。みんなでお金を出して買った机、一人でも反対したら売らないですよね。つまり、共有物を処分する「処分行為」は共有者全員の賛成が必要になります。
2.共有持分を解消する方法
保存はともかく、管理・処分行為にはほかの共有者との連携が必要になります。そのため、共有持分の不動産を保有すると自由な賃貸経営ができないほか、売却もままならないことも。解決するには、共有状態の解消が求められます。
共有持分を解消する方法は以下のとおりです。
・ほかの共有者の持分を買い取って単独所有を実現する |
共有者に持分を買い取ることを持ち掛け、自分だけが所有する不動産にする方法です。 単独所有では賃貸経営や処分を自由に行える点がメリットですが、持分を買い取るお金が必要なことがデメリットです。 |
---|---|
・ほかの共有者に持分を買い取ってもらう |
共有持分を持つ他の共有者に対して、自分の持分を買い取ってもらう方法です。 共有者が共有を嫌がっていたり、単独所有を希望していたりするときは有効な方法です。 |
・不動産会社に共有持分だけを買い取ってもらう | 不動産会社のなかには、共有持分を買い取ってくれる会社があり、そこに自分の持分を売却する方法があります。話し合いなどの必要がないため早期解決が見込めますが、安価な金額が提示されることも珍しくありません。 |
・共有者全員を説得し売却を行う | 他の共有者に売却の話を持ち掛け、全員の同意を得たうえで不動産を売却する方法です。かなり時間と労力がかかる方法ですが、実務では比較的頻繁に行われています。ただし、売却意思のほかにも、売却金額など多数決め事があるため、話がまとまらないことも珍しくありません。 |
3.結果
G様は共有について理解を深めた結果、叔父様へ売却の話を持ち掛け、相続した持分のマンションについて売却を行いました。叔父様は当初売却には否定的でした。しかし、依頼した不動産会社から今後築年数が経過するにつれて修繕費用がかさむなど、賃貸経営の難しさを説明し納得されたとのことです。
3.東京都にお住まいのS様が、「定期借地上にある建物を相続して売却した事例」
最後にご紹介する事例は非常にレアなケースです。定期借地権のついた土地上にある建物のみを相続したS様はどのようにして建物だけを売却したのでしょうか。
お客様の相談内容
S様が相続する不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
相続する不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市北区弓削 | 種別 | 戸建て |
---|---|---|---|
建物面積 | 125㎡ | 土地面積 | 200㎡ |
築年数 | 40年 | 成約価格 | 1,900万円 |
間取り | 4LDK | - | - |
相談にいらしたお客様のプロフィール
東京都にお住まいのS様は、亡くなられたお父様から一戸建てを相続することになりました。しかし、詳しく調べてみると、その建物が定期借地権という契約のもと建てられていることが判明しました。S様は現在、ご家族と東京都内のマンションにお住まいのため、相続した実家を売却したいと考えています。しかし、定期借地権の建物が売却できるのかどうか、その方法や注意点について知りたいとのことです。
解決したいトラブル・課題
S様のご要望は、ご実家の売却です。ただし、借地権についての理解を深め、実現性の高い販売戦略を立てることが必要になります。
相談する不動産会社の探し方・選び方
S様がご実家を売却するためのパートナーとして、不動産会社には以下のような条件を求めたいところです。
・交渉力がある不動産会社 | 定期借地権の建物売却には、地主との交渉が欠かせません。不動産会社には、交渉経験が豊富で、円滑に交渉を進めることができる能力を求めましょう。 |
---|---|
・法律や慣習に詳しい不動産会社 | 借地借家法をはじめとする関連法規に精通しており、法的な問題が発生した場合にも適切に対応できる能力が必要です。さらに、士業との連携ができているかもチェックするとよいでしょう。 |
・提案力のある不動産会社 | 借地権付きの建物を売却する方法はたくさんあります。そのため、実現性の高い売却方法を数多く提案してくれる不動産会社を探すことも必要です。 |
S様の「トラブル・課題」の解決方法
S様が希望する借地権付きの建物を売却するためには、契約内容はもちろんのこと、関係者の状況把握をしたうえで全員が納得できる売却方法を見出せるかが勝負です。そのためには、借地権の特殊性を理解しておくことが求められます。
1.定期借地権の種類
そもそも定期借地権とはどのようなものなのでしょうか。ここでは、定期借地権についてよくあるご質問に回答する形で解説します。
・定期借地権ってなに? | 定期借地権とは、一定期間だけ土地を借りて建物を建てることができる権利のことです。契約期間が終了すると、建物を取り壊して土地を返還しなければなりません。土地の所有者は、契約期間が終了すれば必ず土地を取り戻せるというメリットが、土地を借りる人は、土地を購入する必要がないため、初期費用を抑えて住宅を手に入れられるというメリットがあります。 |
---|---|
・定期借地権にはどんな種類があるの? |
定期借地権は大きく3つの種類があります。
|
・一般定期借地権ってなに? | 一般定期借地権とは、土地を一定期間借りて建物を建てる権利のことです。通常の借地権と異なり、契約期間が50年以上と長く、契約更新はできません。そのため、契約期間満了時には建物を撤去し、土地を返還しなければなりません。S様のご実家はこのケースに該当します。 |
・建物譲渡特約付借地権ってなに? | 建物譲渡特約付借地権とは、土地を借りて建物を建てる権利ですが、一般的定期借地権との大きな違いは、契約期間満了時に建物を土地の所有者に売却しなければならないという点にあります。 |
・事業用定期借地権ってなに? | 事業用定期借地権とは、おもに事業用の建物(店舗やオフィスなど)を建てる目的で、土地を一定期間借りる契約のことです。一般的な定期借地権と異なり、契約期間が更新されることはありません。契約満了時には建物を撤去したうえで、地主へ土地を返還する必要があります。 |
2.定期借地権付き物件の売却方法
定期借地権が付いた建物の売却は可能です。しかし、不動産を所有するからには土地も建物も自分のものでありたいと考えるのが人の常。不動産市場には借地権付きの建物が売られていますが、市場規模はかなり小さく、早期の売却などは見込みにくいと考えるべきです。
しかしながら、それでも売却できないわけではありません。ここでは、定期借地権付きの物件を売却する実務的な方法を紹介します。
・建物と借地権をセットで売却する | 借地権がある家をそのまま売却する方法です。買主からすれば土地の購入費用がかからないため安価に家を取得することができます。しかし、借地料を永続的に支払う必要があるほか、借地期間がどれだけ残っているかなども加味する必要があるため、希望者は限られる傾向にあります。 |
---|---|
・地主に建物を売却する | 地主に対して家を売ってしまう方法です。強引に思われるかもしれませんが、実は効果的な方法なのです。なぜなら、建物と土地が同一の所有者だと価値が向上するからです。 |
・地主から土地を買い取ってから土地と建物を売却する | 今度は逆パターンでこちらが土地を買い取って建物ごと売却してしまう方法です。地代や安いときなどは地主が喜んで売ってくれることがあります。 |
このように、借地権付きの建物は工夫と交渉力があれば売却の戦略を立てることができます。ご自身資金力・地主との関係性・地主の状況などさまざまな要素を検証して、最良の選択肢をお選びください。
3.結果
S様は地主から土地を取得し、土地と建物を一括して1,900万円で売却することができました。地主へ売却の相談をしたところ、地主も借地権の解消を希望していたことがわかったそうです。しかし、建物を購入する資力が地主になかったためS様自身が土地を購入し売却する方法を画策。同時進行で不動産会社の顧客リストに希望顧客がいたこともあり、トントン拍子で売却が決定。S様も地主も大満足の決済だったそうです。