
令和6年4月1日、相続登記を義務化する法律が施行されました。一言でまとめると、不動産を相続したら、名義変更の手続きをしなければならないということです。
今回の改正は、過去に相続した不動産も対象になります。つまり、改正法施行前に不動産を相続したものの、まだ名義変更をしていない場合は、早めに手続きをする必要があります。もしも、正当な理由なく相続登記をしない場合、「過料」という罰金が科せられる可能性があるため、相続登記は相続に合わせて適宜適切に行いたいところです。
今回は、そんな相続登記に関する事例を紹介いたします。
「相続登記がどんなものかわからない」
「相続登記はどうやってすればいいの?」
「相続登記は自分でもできるの?」
このようなお悩みをお持ちの人には役立つ事例ばかりです。
ぜひ最後までお読みください。
今回の法改正も踏まえ、原則として相続と相続登記はワンセットで考えるべきです。これは罰金の存在もありますが、売却活動をスムーズにするためには相続登記は欠かせないからです。
相続登記から売却までをスムーズに進めた事例からは、相続登記とは何なのか、そしてどのようにすれば相続登記を実行できるのかのヒントがたくさん盛り込まれています。
なお、ご紹介する事例は個人や不動産の特定を避けるため、一部を脚色・改変・秘匿したうえでの紹介となります。
1.広島県にお住まいのE様が、「相続登記の手続きをサポートしてもらい、熊本市の実家を売却した事例」

最初に紹介するのは、広島県にお住まいのE様が、相続することになったご実家を売却した事例です。
お客様の相談内容
E様が相続した不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
E様が売却したい不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市北区植木町舞尾 | 種別 | 一戸建て |
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専有面積 | 55~60m² | 土地面積 | 135~140m² |
築年数 | 50年 | 成約価格 | 500万円 |
間取り | 3DK | 地目 | - |
相談にいらしたお客様のプロフィール
広島県在住の50代女性E様は、1年前にお父様が逝去され、ご実家を相続されました。E様は既に自宅をお持ちで、相続されたご実家に住む予定はないため、売却を検討されていますが、ご実家の名義変更はまだお済ませでない状況です。
解決したいトラブル・課題
E様は、後回しにしていた相続登記を完了させ、ご実家を売却することが希望です。
相談する不動産会社の探し方・選び方
E様が相続登記を行い、実家を売却するためには、以下のような不動産会社が適しています。
・遠隔での対応が可能な不動産会社 | 遠隔地の不動産売却には、売る側にも不動産会社側にも注意が必要です。なぜなら、本人確認や不動産の特定など、不動産売却実務には対面によりスムーズに進む点が多数あるからです。しかし、昨今では遠隔地の不動産売却依頼も増加しているため、zoomなどのツールを駆使して対面と変わらないクオリティで手続きを進めるノウハウを有している会社であることが必要です。 |
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・士業との連携が取れている | もはや、昨今の不動産売却において、士業との連携は欠かせません。これは単に紹介先があるというだけでは不十分であり、なにかあったときにすぐに相談できるレベルの連携が取れていないと、複雑化する相続問題や税務への対応は困難だからです。 |
E様の「トラブル・課題」の解決方法
E様にとっての最大の課題は、相続登記が完了していないことです。そのため、相続登記をどのようにして進めるかを軸に、売却活動を行うことが求められます。
1.相続登記の手続きの流れ
相続が発生してから、相続登記が完了するまでの一般的な流れは、以下のようにまとめることができます。
1.相続の発生と遺言書の確認
相続の開始: 被相続人(亡くなった方)の死亡により、相続が開始します。
相続手続きでは、まず遺言書があるかどうかを確認します。遺言書がある場合は、その内容に従って相続手続きが進められます。遺言書がない場合は、法定相続人による遺産分割協議が必要です。
2.相続人の確定
被相続人(亡くなった人)の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本などを収集し、法定相続人を確定します。このとき、相続人の関係性を図式化した「相続関係説明図」を作成すると、手続きがスムーズに進みます。
3.遺産の調査と評価
不動産、預貯金、有価証券、自動車など、被相続人のすべての財産を調査し、財産目録を作成します。不動産については、不動産の固定資産税評価額を証明する「固定資産評価証明書」を取得することで、もれなく確認することが可能です。
このとき、相続税申告が必要な場合は、相続財産の評価も並行して行うとよいでしょう。
4.遺産分割協議
法定相続人全員で、どの財産を誰がどのように相続するかを話し合います。協議がまとまれば、遺産分割協議の内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名・捺印のうえ、印鑑証明書を添付して完成です。
なお、相続登記には遺産分割協議書が必須です。
5.相続登記の準備
法務局に提出する「相続登記申請書」を作成します。提出に必要な書類(戸籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書、固定資産評価証明書など)の準備も進めておきましょう。
6.相続登記の申請
管轄の法務局に、作成した登記申請書と必要書類を提出します。相続登記には登録免許税がかかりますので、必要な費用を法務局で支払いましょう。
7.登記完了と登記識別情報の受領
登記が完了すると、登記簿に新しい所有者が記録されます。登記完了の証明として、新しい所有者には「登記識別情報」が通知されます。これは、昔でいうところの「権利証」ですので、大事に保管しておきましょう。
8.その後の必要な事務事項
相続税がかかる場合は、相続税の申告と納付が必要です。
これらの手続きは、自分でもすることができますが、司法書士などの専門家に依頼するほうでスムーズに進めることができます。依頼する余裕がある人は、不動産会社に相談し、司法書士を紹介してもらうのがよいでしょう。
そのほか、登記申請手続きはオンラインでの対応も可能であるほか、諸費用も必要となります。これら詳細は下記資料も参考にされてください。
参考:法務省民事局 「登記申請手続のご案内」
2.結果
E様は、広島にいながら無事にすべての手続きを完了させることができました。
相続登記では不動産会社に紹介してもらった司法書士が手続きをすべて代行、不動産会社は並行して買主を検索し、わずか3ヶ月で相続登記を終わらせ、不動産売却も完了しました。
頻繁に熊本へ赴くことを想定していたE様は、手間が省けたことをたいおうお喜びだったとのことです。
2.熊本市にお住まいのK様が、「不動産会社のサポートのもと相続登記を自力で完了し、実家を売却した事例」

次に紹介するのは、専門家のサポートなくして相続登記をご自分で対応されたK様の事例です。
お客様の相談内容
K様が売却したい不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
売却したい不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市北区麻生田 | 種別 | 一戸建て |
---|---|---|---|
建物面積 | 55~60m² | 土地面積 | 200m² |
築年数 | 51年 | 成約価格 | 700万円 |
間取り | 3LDK | その他 |
相談にいらしたお客様のプロフィール
熊本市にお住まいのK様(60代)は、お母様の逝去に伴い、弟様とご実家を相続されました。お二人とも既に住居をお持ちであるため、ご実家を売却し、現金化することを希望されています。遺言書もないことから、弟様との協議のうえ売却を検討しています。売却にあたり、まずは相続登記を行う必要がありますが、現在その手続きの段階で足踏みされている状況です。
解決したいトラブル・課題
K様は熊本にお住まいであるため、自分でできることは自分でしたいと考えています。相続登記の手続きを自分でするためには、何が必要でどうすればよいのか。K様は手続きについてお悩みをお持ちです。
相談する不動産会社の探し方・選び方
K様は売却の相談を兼ねて地元の不動産会社を以下のような点に重視して選ぶことにしました。
・相談しやすい不動産会社であること | 不動産会社は、しつこく営業ばかりしてくることも珍しくありません。営業ばかりの不動産会社に良いイメージを持つ人は少ないため、親身になって相談に応じてくれる伴走型の不動産会社は、信頼できるといってよいでしょう。 |
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・相続など不動産関連の知識に造詣があること | 士業との連携も重要ですが、不動産会社自身が知識を持っていることも同じくらい重要です。また、自社で不動産を保有するなど、営業担当者自身も不動産ユーザーとしてさまざまな経験を持っていると、より身近な経験則を得ることができるため、頼りがいのある存在となるでしょう。 |
K様の「トラブル・課題」の解決方法
ご自身で相続登記をすることは簡単なことではありませんが、経験豊富な不動産会社のアドバイスのもと、必要書類や手続きの具体的な方法を教えてもらえれば、決して無理なことではありません。
1.相続登記の必要書類
相続登記には以下のような書類が必要です。取得先や必要情報を一覧表にまとめました。
- ①亡くなった人(被相続人)に関する書類
必要書類 | 徴収先 | 備考 |
---|---|---|
戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 | 出生から死亡までのもの |
住民票の除票 | 被相続人の最後の住所地を証明するため | |
固定資産評価証明書 | 相続する不動産の固定資産税評価額を証明するため | |
名寄帳 | 被相続人が所有していた不動産の一覧を確認 | |
登記事項証明書 | 不動産所在地を管轄する法務局 | 相続する不動産の権利関係を特定するため |
- ②相続する人(相続人)に関する書類
必要書類 | 徴収先 | 備考 |
---|---|---|
戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 | 被相続人との続柄を証明するため、すべての相続人分が必要 |
住民票 | 居住地の市区町村役場 | 相続人すべての現在の住所地を証明するため |
印鑑証明書 | 遺産分割協議書に実印で捺印し、印鑑証明書を添付するため |
- ③その他
必要書類 | 徴収先 | 備考 |
---|---|---|
遺産分割協議書 | 相続人との協議に基づき自ら作成する必要あり | 相続人全員の署名・捺印(実印)が必要 |
登記申請書 | 法務局 | 登記の申請に必要な指定書式 |
2.結果
K様は、弟様と協議のすえ、売却益を折半することで合意。手続きは弟様より一任されました。少しでも手取りを多く残したいとの思いもあり、煩雑ではありましたが自分で相続登記を無事完了させることができました。
そのうえで、不動産も希望額で売却することができ、弟様ともども相続を無事終え今は安心されているとのことです。
3.熊本市にお住まいのN様が、「相続登記を専門家に任せ、実家を売却した事例」

最後に紹介する事例は、相続登記を専門家である司法書士に依頼し、不動産売却に成功した事例です。相続不動産の売却実務ではもっとも実用的な事例といえるでしょう。
お客様の相談内容
N様が相続した不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
相続する不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市南区八幡 | 種別 | 一戸建て |
---|---|---|---|
建物面積 | 100~105m² | 土地面積 | 200m²超 |
築年数 | 41年 | 成約価格 | 600万円 |
間取り | 4LDK | その他 | - |
相談にいらしたお客様のプロフィール
熊本市にお住まいの50代N様は、先日、同居されていたお母様がご逝去され、ご実家を相続されることになりました。N様は現在、ご実家を売却し、新たな住居への住み替えをご検討されていますが、相続手続きはまだ手付かずという状況です。
解決したいトラブル・課題
N様は普段お仕事もおありですので、自分で相続登記をする時間がありません。不動産売却と購入、相続手続きなどやることが多いため、N様自身は不動産の売却と購入に軸足を置き、相続登記は司法書士へ依頼することでスムーズな相続と不動産手続きの完了を目指すのが良いでしょう。
相談する不動産会社の探し方・選び方
N様にとって適した不動産会社は以下のような特徴を持つ会社といえます。
・不動産売買の実績が多い不動産会社 | 不動産の買い替えはタイミングが非常に重要です。売却と購入のタイミングがずれてしまうと、不要な仮住まい経費などがかかるからです。そのため、買い替えを前提として購入希望者を探す柔軟で力強い販売力と、良い物件が見つかったときに売却スケジュールを調整できる提案交渉力の双方を兼ね備えた不動産会社であることは必須です。 |
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N様の「トラブル・課題」の解決方法
そもそも、不動産売却では未実施の登記をすべて登記簿に反映させることが必要です。そのため、まずは相続登記を完結させ、そのあとに不動産売却~購入を進めることにしました。
1.相続登記は誰に頼む?
相続登記は、以下のような人がすることができます。
- ①相続人が行う
相続人(自分)が自ら相続登記を行う方法があります。なお、相続人による相続登記には以下の方法があります。
1.共同申請
相続人全員が共同で申請する方法です。この方法は、相続人全員の意思確認が取れている場合に用いられます。
2.単独申請
法定相続分による相続の場合に、相続人のうち1人が単独で申請する方法です。ただし、遺言書などで相続分が指定されている場合は、その内容に従って申請する必要があります。
- ②遺言執行者
「相続させる旨の遺言」により執行者が決められているときは、遺言執行者が単独で相続登記をすることができます。なお、相続ではなく「遺贈(相続人以外のものに財産を渡すこと)」であるときは、受遺者(相続財産を受け取る人)しか相続登記をすることができず、相続人は相続登記をすることができません。
- ③司法書士や弁護士などの専門家
もっともメジャーな方法が、専門士業への依頼です。司法書士や弁護士がそれに該当しますが、弁護士は法的な問題の解決や訴訟に関する専門家であるため、一般的には司法書士に依頼することがほとんどです。
司法書士への依頼は、心理的にハードルが高いことがほとんどです。その点を踏まえると、不動産会社が懇意にしている司法書士を紹介してもらうのがよいでしょう。
2.相続登記を専門家に依頼するメリット・デメリット
相続登記を自分でするときと、専門家に依頼するときのメリットとデメリットは以下のようなものです。
自分で相続登記を行う場合 | 専門家(司法書士)に依頼する場合 | |
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メリット |
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デメリット |
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ケースバイケースですが、相続登記は多くの人たちは司法書士へ依頼しています。これには、やはり手続きの煩雑さや時間のなさがあると考えられます。不備があるとその後の不動産売却へも影響をおよぼしかねないため、専門家へ依頼することを前提にしておくのがベターな選択肢です。
3.結果
多忙なN様は、知識に不安があることも踏まえ、司法書士へ依頼することにしました。結果、相続登記はほどなくして完了。懸念だったご実家も川尻駅徒歩圏という好立地も追い風となり、査定額と同額での売却が叶いました。同じ時期に希望するエリアでの新居も見つかり、今では新居での新生活を楽しまれています。
N様は相続登記や不動産売却・購入があまりにもスムーズに進んだため、まだ実感が湧かない、と笑顔で話されていました。