
相続財産のなかに不動産があれば、せっかくなら相続すべきと思われがちです。
しかし、相続財産にはプラスの資産もあれば、マイナスの負債があることも事実。負債総額が資産を上回る場合、「相続放棄」という選択肢が重要となります。
期限や手続きを誤れば、思わぬ負担を背負うことに。本記事では、不動産と負債が絡む相続の実態と、相続放棄という選択肢について、実際の事例を解説します。
財産より負債が多いときの適切な判断のために、ぜひご一読ください。
相続に直面したとき、多くの方が感じる不安や迷いは自然なものです。そのため、資産と負債が混在するケースでは、冷静な判断が求められます。
ここからは、実際にあった相続放棄の事例を通して、その選択肢を選ぶべきタイミングと具体的な手続き方法を見ていきましょう。
なお、ご紹介する事例は個人や不動産の特定を避けるため、一部を改変・秘匿してご紹介させていただきます。
1.大阪にお住まいのC様が、「『資産も借金もある』遺産を相続するか悩んでいたが、最終的に相続する事を決断できた事例」

最初は、大阪府にお住まいのC様が、ご実家と借金の両方を相続するに至ったお話です。
お客様の相談内容
C様が相続した不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
C様が売却したい不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市北区植木町湧水 | 種別 | 一戸建て |
---|---|---|---|
専有面積 | 100~105m² | 土地面積 | 160~165m² |
築年数 | 45年 | 成約価格 | 550万円 |
間取り | 3LDK | 地目 | - |
相談にいらしたお客様のプロフィール
お客様は大阪府にお住まいの50代のC様です。お父様が亡くなられ、C様が熊本市内にあるご実家を相続することになりました。しかし、相続財産の調査を進めていくうちに、お父様におよそ300万円の借金があることが判明しました。C様はこの借金を引き継ぎたくないという思いから「相続放棄」を検討されています。
解決したいトラブル・課題
C様は最初「相続放棄」するつもりでしたが、よく考えてみると別の可能性に気づきました。
「もしかしたら、実家を売った金額が借金より多いかもしれない」
そこでC様は、実家がいくらで売れるのか正確に知るために、不動産会社に査定をお願いし、プロの意見を聞くことにしました。相続放棄を決める前に、きちんと実家の価値を調べてみるという慎重な方法を選んだのです。
相談する不動産会社の探し方・選び方
C様が相続すべきかどうかを判断するのに適した不動産会社の特徴は、以下のようなポイントをもって探すのがよいでしょう。
・FPなど金融分野に精通している不動産会社 | 相続では不動産だけでなく、預貯金や有価証券といった金融資産、またローンなどの負債も含めた全財産を正確に把握することが重要です。すべての資産と負債を総合的に分析し、単なる個別資産の評価にとどまらず、相続後の資金計画まで見据えた包括的なアドバイスができる、専門性の高い不動産会社が望ましいと考えられます。 |
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・遠隔地対応が可能な会社 | C様のケースでは大阪在住で熊本の実家という遠隔地の物件です。現地に店舗を構えつつ、遠隔地のお客様ともスムーズにやりとりができる柔軟性の高いサポート体制が整った不動産会社を選ぶのがよいでしょう。 |
C様の「トラブル・課題」の解決方法
C様にとって、300万円の借金がネックでしたが、不動産会社の査定によれば550万円の価値が実家にあることがわかりました。
1.相続放棄とは?
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産を一切相続しないという選択肢です。法律上は、相続人が相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述書を提出することで行えます。相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったものとみなされます。
2.相続放棄のメリットとデメリット
相続放棄は3ヶ月以内に手続きが必要であるほか、一度行うと撤回できないため、慎重な判断が求められます。以下では相続放棄のメリット・デメリットについて解説します。
- ①相続放棄のメリット
負債の引継ぎを回避できる | 相続放棄をすることで、被相続人の借金や債務を一切引き継ぐ必要がなくなります。これは住宅ローン、事業融資、個人間借金、税金滞納、保証人としての債務なども含まれます。特に事業失敗による多額の債務や、本人が知らなかった保証債務なども引き継がずに済む点は、大きなメリットといえそうです。 |
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相続トラブルに巻き込まれないで済む | 遺産分割では、相続人間で「誰が何をどれだけ相続するか」という協議が必要で、深刻な争いに発展することがあります。相続放棄をすれば、こうした協議や交渉に参加する必要がなく、家族間の潜在的な紛争を回避できます。 |
精神的負担の軽減 | 債務超過の相続では、債権者からの取立てや督促に対応する必要があります。これは精神的にも大きな負担となりますが、相続放棄によってこの心理的プレッシャーから解放されます。特に高齢者やご家族がいらっしゃる人には重要なメリットといえるでしょう。 |
- ②相続放棄のデメリット
プラスの財産も放棄しなければならない | 相続放棄は「一部だけ」の放棄はできず、すべての財産を放棄することになります。例えば借金が300万円で不動産が1000万円の価値がある場合、相続放棄をすれば700万円の純産も得られなくなります。また、形見分けなどの思い出の品も法的には相続できなくなります。 |
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撤回することができない | 一度家庭裁判所に申述して受理されると、原則として撤回はできません。後から「実は資産価値が高かった」「隠れた資産が見つかった」と判明しても、相続放棄を取り消すことは不可能です。例外的に詐欺や強迫によるものであれば取消しが可能ですが、ハードルは非常に高いため、慎重な判断が求められるでしょう。 |
人間関係に影響を及ぼしかねない | 相続放棄をすると次順位の相続人(子が放棄すれば孫など)に相続権が移るため、自分の子どもに負債が回る可能性があります。また、一部の相続人だけが放棄すると「自分だけ得をしようとしている」という誤解を招き、家族関係に亀裂が入ることも。特に親族間で経済状況に差がある場合、こうした軋轢は深刻化しやすく、家族全員で放棄するには全員が個別に手続きを行う必要があるため調整も必要です。 |
3.結果
C様は、もとより相続放棄をする予定でしたが、不動産価値を正しく知ることができたため、相続を承認し、不動産を売却することで、相続を無事終えることができました。
借金があると判明した時点で一も二もなく相続放棄と考えていたC様にとって、結果的にプラスで相続を終えることができたのは、まさに暗闇に差し込んだ一筋の光のようでした。『諦めていた実家の価値が借金を上回っていた』という事実は、長年の不安と心配を一気に吹き飛ばす、思いがけない贈り物となりました。C様は、『もう少し慎重に判断して本当に良かった。あの時、すぐに相続放棄していたら、この財産も家族の思い出も全て手放すところだった』と、安堵の表情で語られています。
2.熊本市にお住まいのG様が、「無料で実家を査定してもらった結果、相続放棄するかどうかの判断ができるようになった事例」

次に紹介するのは、相続放棄をすべきかどうか、ご実家の査定結果をもとに判断することになったG様の事例です。
お客様の相談内容
G様が売却したい不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
売却したい不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市東区花立 | 種別 | 一戸建て |
---|---|---|---|
建物面積 | 65~70m² | 土地面積 | 110~115m² |
築年数 | 43年 | 成約価格 | 450万円 |
間取り | 4LDK | その他 | - |
相談にいらしたお客様のプロフィール
熊本市在住の50代G様は、父親の死去に伴い実家を相続することになりました。しかし、G様はすでに市内に自己所有の住居があるため、相続した実家に住む予定はありません。また、父親には600万円の借金があり、G様はその借金も引き継ぐことになりました。
解決したいトラブル・課題
G様が相続すべきか、もしくは相続放棄すべきかの判断材料が必要です。言い換えれば、ご実家がいくらで売却できるか、ということが分かればG様は最適な相続判断をすることができます。
相談する不動産会社の探し方・選び方
G様は売却の相談を兼ねて地元の不動産会社を以下のような点に重視して選ぶことにしました。
・相続不動産に精通した会社 | 相続物件の売却は通常の売却と異なる点が多いため、相続物件の取扱い実績が豊富な会社が望ましいです。相続専門の部署やアドバイザーがいる会社が理想的です。 |
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・迅速な売却が可能な会社 | 債務がある場合、早期売却が重要になることが多いため、買取保証や自社での買取サービスを提供している会社、あるいは販売力の高い会社が有利です。 |
G様の「トラブル・課題」の解決方法
G様がご実家を売却したときの査定額を不動産会社へ依頼したところ、おおむね400~500万円という回答を得ることができました。借金が600万円あるため、このまま相続を単純承認すると、100~200万円のマイナスになることがわかりました。
査定結果をもって、あとはG様が思い入れのあるご実家を含めて借金も相続するか、もしくは相続を放棄するかの選択に委ねられます。
1.相続放棄と単純承認の違い
相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産(債務)も一切引き継がないという選択です。家庭裁判所への申述が必要で、相続開始を知った日から3ヶ月以内に手続きを完了する必要があります。一度放棄すると撤回はできません。
一方、単純承認は被相続人の全ての財産と債務を無条件に引き継ぐことです。明示的な手続きをしなくても、3ヶ月以内に相続放棄や限定承認の手続きをしなければ自動的に単純承認となります。また、相続財産を処分したり、隠したりした場合も単純承認とみなされます。
両者の最大の違いは、単純承認では被相続人の借金が財産を上回る場合でも、相続人が自己の財産で返済する義務を負いますが、相続放棄ではそのような責任は一切発生しない点です。どちらを選択するかは慎重な判断が必要であり、不動産査定や負債総額の確認、隠れた資産・負債の調査など、相続財産の正確な価値判断を行った上で決断することが重要です。
2.結果
G様は数字だけでは割り切れない思いを抱えています。思い出が詰まった実家には数値以上の価値がある一方、100~200万円の負担も小さくありません。
「父の形見として残したい気持ちと経済的現実の間で迷っています。」とG様は語ります。今週末、G様はご家族に相談する予定です。「家族全員が納得できる形で決めたい」と話すG様。期限まであと1ヶ月、家族の意見を聞きながら慎重に検討を続けています。
それでも、不動産会社に査定を依頼したことで、漠然とした不安から具体的な数字に基づく検討へと前進できました。「実家の価値が明確になったことで、家族との話し合いも現実的な内容になります。査定をしてもらって本当に良かったです。」とG様は話されていました。
3.遠方にお住まいのU様が、「相続予定の実家の査定を依頼し、借金問題の解決に道筋がつけられた事例」

最後に紹介する事例は、相続財産に借金が含まれていたものの、相続をきっかけとして兄の借金問題を解決させたU様の事例です。
お客様の相談内容
U様が相続した不動産の概要とプロフィールは以下のとおりです。
売却物件 概要
相続する不動産の概要は以下のとおりです。
所在地 | 熊本市東区下南部 | 種別 | 一戸建て |
---|---|---|---|
建物面積 | 80~85m² | 土地面積 | 100~105m² |
築年数 | 46年 | 査定価格 | 400万円 |
間取り | 4DK | その他 | - |
相談にいらしたお客様のプロフィール
岡山県在住の60代U様は、実家を相続していた兄の死去により、その実家を相続することになりました。しかし、U様は現在の住まいから移り住む予定はありません。このまま相続を承認してしまうと、兄の残した800万円の借金も引き継ぐことになります。U様は実家と併せてその債務も背負うことになるため、どうしたものかとお悩みのご様子です。
解決したいトラブル・課題
U様が望むことは、兄の借金を背負いたくないことに尽きます。相続放棄を視野に対応する方向で検討するご意思はどうやら固そうです。
相談する不動産会社の探し方・選び方
U様にとって適した不動産会社は以下のような特徴を持つ会社といえます。
・相続や税務の知識がある | 単なる不動産売買だけでなく、相続全体の視点からアドバイスできる会社、または税理士などの専門家と連携している会社が望ましいです。 |
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・押し売りでない姿勢 | 「必ず売却すべき」と誘導するのではなく、相続放棄という選択肢も含めて中立的なアドバイスができる誠実な会社を選びましょう。 |
U様の「トラブル・課題」の解決方法
U様が不動産会社に査定をお願いしたところ、査定額は400万円と伸び悩む結果となりました。やはり実の兄とはいえ400万円の借金を背負う気持ちにはなれず、U様は相続放棄を選択するに至ります。
1.相続放棄の流れ
相続放棄の手続きは、一度申請して受理されてしまうと撤回することはできません。そのため通常の相続登記の流れとは異なります。相続放棄の流れについても確認しておきましょう。
1. 相続放棄の検討
【相続放棄すべきか判断する】
まず、被相続人の財産と負債の状況を調査します。負債が資産を上回る場合や、相続手続きの負担を避けたい場合に検討します。財産目録の作成や不動産査定を行い、総合的に判断することが重要です。
2. 期限の確認
【法定期限を把握する】
相続放棄は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に行う必要があります。この期間を過ぎると原則として放棄できなくなるため、迅速な行動が求められます。期限内に決断できない場合は、家庭裁判所に期限伸長の申立てが可能です。
3. 必要書類の準備
【申述に必要な書類を集める】
相続放棄には以下の書類が必要です。
- 相続放棄申述書(家庭裁判所で入手または公式サイトからダウンロード)
- 被相続人の死亡記載のある戸籍謄本
- 相続人(あなた)の戸籍謄本
- 印鑑(認印で可)
- 申述手数料の収入印紙(800円)
4. 家庭裁判所への申立て
【正式に手続きを行う】
必要書類を揃えて、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。本人が直接出向くのが原則ですが、遠方の場合は住所地の家庭裁判所で申述する方法もあります。
5. 審査・受理
【裁判所による審査】
申述内容に問題がなければ、家庭裁判所は相続放棄を受理します。審査期間は通常2週間〜1ヶ月程度です。この段階で裁判所から追加資料の提出を求められることもあります。
6. 相続放棄申述受理証明書の取得
【公式証明書の入手】
相続放棄が受理されたら、「相続放棄申述受理証明書」を取得します(手数料150円/通)。この証明書は、債権者や関係者に相続放棄の事実を証明するために必要です。
2.結果
U様は、相続放棄の手続きを進め、無事相続を終えることができました。
事前に不動産会社を通じて相続放棄のメリットやデメリット、手続きの方法などをレクチャーしてもらったおかげで、スムーズに手続きができたと、喜ばれていました。